精油の抽出方法

精油の抽出方法

私たちが日々使っている精油はどのように作られているのでしょうか。
精油の抽出方法はいくつかあります。
精油の成分の性質によって、それぞれ適した方法が選ばれます。

●水蒸気蒸留法
最も多く用いられるのは、水蒸気蒸留法です。
10世紀~11世紀頃には、すでにその方法が確立されていた歴史の古いものです。


まず、精油の原料となる植物を蒸し器のような釜に入れます。
それを加熱し、蒸気を発生させます。
熱と圧力によって、芳香成分が含まれる細胞壁が壊されて、芳香成分が放出されます。
この時、分子の小さな成分から順に、だんだん大きな成分が蒸気中に放出されます。
この蒸気をパイプに集めて、パイプを冷却します。
すると、中の水蒸気は液体になります。
この液体が2層に溜まったものから精油がとれます。
精油は水より比重が小さく軽いため、上部に浮きます。
そして、下部に残った液体は、水溶性の芳香成分と微量の精油が残っていて、ハーブウォーター(芳香蒸留水)になります。

ハーブウォーターって?

このように蒸留されますが、植物によって、蒸留の圧力・温度・所要時間は異なります。
植物を短時間に高圧・高温で蒸留すると、量は多くとれますが、品質に影響を及ぼしてしまいます。
植物に合わせて、じっくりと時間をかけて蒸留することで、良質の精油をとることができます。
植物によって抽出時間はほぼ決まっていますが、うまく抽出するには長年の経験も必要です。

水蒸気蒸留法でとれたものを、精油、もしくは、エッセンシャルオイルと呼びます。
開封後は、約1年で使い切りましょう。

蒸留器が発掘された最古の例は、紀元前3500年頃のメソポタミア文明だといわれています。
当時は素焼きの蒸溜器でした。
今でこそ装置も大型で複雑になっていますが、基本原理はローマ時代から変わっていません。

現在の蒸留器

紀元前2世紀頃の蒸留器

見た目こそ違いますが、原理は同じだということです。

このような現在の蒸留器に至るまでに、何人もの錬金術師が関わってきました。
初めて純粋な精油を作り出したのは、医師であり、化学者であり、錬金術師でもある、アラブ人のアヴィケンナ(イブン・シーナ)だといわれています。
錬金術によって、非金属から金を生み出す実験をしていました。
実験材料だったバラの花から、結果として精油を蒸留する方法を発見しました。
名医としても名高かったアヴィケンナは、蒸留の技術を高めただけではなく、蒸留した精油を治療に使用して効果をあげました。

水蒸気蒸留法の利点は、比較的装置も簡単でコストもかからないところです。
欠点は、原料となる植物が熱と水にさらされるため、この方法ではうまく抽出できない植物があるところです。
デリケートな成分を含む精油は、熱と水に反応して壊れてしまうためです。
ジャスミンやローズがこれにあたります。

では、ジャスミンやローズはどのような方法で抽出されているのでしょうか。

●溶剤抽出法
溶剤抽出法は、大きく2つに分けられます。
まずひとつ目の方法は、ジャスミンやローズなどの花から精油を抽出する伝統的な方法です。

①不揮発性有機溶剤抽出法(油脂吸着法)
吸着させるときの温度の違いで、2種類に分けられます。
・冷浸法(アンフルラージュ法)
常温で行われます。
動物性の油に花びらを敷き詰め、香りの成分を吸着させます。
花の香りでいっぱいになった脂を作ります。
これを「ポマード」と呼びます。
このポマードにエタノールを蒸散させて精油ができます。
男性の整髪料のポマードはここからきているそうです。
・温浸法(マセレーション法)
50℃~60℃の高温に熱した油に花を入れて抽出します。

これらの方法は、フランスのグラースなどでは、かつては盛んに行われていたそうです。
しかし欠点も多かったのです。
非常に多くの人手を要し、製造コストがかかりました。
それから、非常に効率も悪かったのです。
そのような理由から、現在では、観光客に見せるアトラクションとして行われている程度で、商業的には実用化されていないようです。

そこで、手間のかかる吸着法を、工業的に実用化したものが、ふたつ目の方法です。

②揮発性有機溶剤抽出法
ノルマルヘキサン、石油ベンゼン、エーテルなどの、揮発性有機溶剤を使用します。
温めた揮発性溶剤に、原料の植物を入れると、精油成分が他の物質と一緒に出てきて固まります。
これを、「コンクリート」と呼びます。
このコンクリートに、エタノールを加えてよく溶かし、香りを移し、エタノールを蒸散ささせると精油ができます。

このように薬剤を用いる方法は、精油の歴史からみると、比較的新しい方法です。

溶剤抽出法2つには、共通の利点と欠点があります。
まずは利点です。
熱や水によって、精油成分が損なわれることがないため、微妙な花の香りを抽出でき、非常に美しい香りがすることです。
ローズの香りのみで比較した場合、この方法で抽出したもののほうが、美しく勝っていると言われるほどです。
欠点は、溶剤が残留している可能性があることです。

溶剤抽出法でとった花の精油を「アブソリュート」、樹脂からとった精油を「レジノイド」と呼びます。
これは、水蒸気蒸留法でとった精油と区別するためです。
ローズに限っては、水蒸気蒸留法でとったものを「ローズ・オットー」、溶剤抽出法でとったものを「ローズ・アブソリュート」と呼び区別します。

アロマテラピーを行う場合は、溶剤が残留している可能性があるため、溶剤抽出法で抽出された精油は使用しません。
しかし、水蒸気蒸留法でとることのできない”ジャスミン”に限っては、芳香のみで使用が可能です。

精油は、植物を100倍~200倍に濃縮したものですから、それだけに慎重に扱わなければならないのです。

さて、「パフューム」という本や映画を知っていますか?

この映画の中では、冷浸法を行っているシーンも出てきて、人手がかかることがよく分かります。
この物語は、18世紀のフランス、香水の町グラースが舞台です。
ありえない原料で香水を作るという恐ろしい物語ですが、冷浸法、水蒸気蒸留法、温浸法、香水作り、当時のフランスの感じなど、まるごと香料の物語です。
香りが、人の心までも支配する力を持っていたという、香りと脳の関係も含め、アロマテラピーや香りの好きな方には興味深い映像かと思います。

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続いて、古くからの方法、圧搾法です。
一番単純な、昔ながらの方法です。
主に柑橘系植物の果皮から抽出されます。
果皮を圧搾して油胞を潰して抽出します。
みかんの皮をむくとき、ヌルッとして香りがします。
それが油胞です。

圧搾法には古くからの方法が2つあります。
①海綿法
海綿法は、実からむきとった果皮を手で圧搾して、搾り出した果汁を海綿に吸着させる方法です。
まったくの手作業です。
②エキュエル法
エキュエル法は、針を刺した樽の中に果実を入れて、転がし、果皮を傷つけて果汁をとる方法です。
現在では、機械で圧搾するのが主流です。
これは、ローラー法や機械圧搾法と呼ばれています。
しかし現在でも、手作業で絞ったものが最上級とされているようです。

圧搾法でとれた精油は、エッセンスと呼ばれます。

圧搾法の利点は、熱も水も使わないので、非常にフレッシュで、変質することなくデリケートな成分を損なうことなく抽出できることです。
欠点は、酸化しやすいため、品質が悪くなるのが早いことです。
ふたを開けたら、6ヶ月以内に使いきるようにします。
ただし、例外があります。
”ベルガモット”の精油だけは、成分の中に酸素を含んでいます。
そのため、酸化しづらいので、水蒸気蒸留法で抽出したものと同じく、1年間ほどの使用が可能になります。
もうひとつ欠点として、絞りかすなど、不純物が混ざることがあることです。

ここまでが、主な精油の抽出方法になりますが、他にも方法があります。

●超臨界流体抽出法(ガス抽出法)
超臨界流体の液化二酸化炭素などを抽出に用いる方法です。
1970年代に開発された抽出法です。
利点は、事前の植物中に存在している状態に極めて近い形のまま、上質な精油をとることができることです。
革命的に優れた精油をとることができると、大きな注目を集めました。
欠点は、非常に大がかりな設備が必要で、コストがかかることです。
このため、期待されたほど普及はされませんでした。

●パーコレーション法
水蒸気蒸留法の一種ですが、植物の下からではなく、上から水蒸気を噴射させる方法です。
木材や種などのの硬いものから精油をとるときに用いられます。
水蒸気蒸留法ならば、12時間かかる抽出法が、4時間という短時間ですみます。
利点は、蒸留の速度を速めることで、植物へのダメージを軽減させることができます。
欠点は、不揮発性物質が混ざってしまうことです。

●芳香チンキ
芳香植物をエタノールに浸して、芳香成分を抽出したものです。
アルコール濃度や浸出時間などの条件は、国によっても違います。

このように、様々な抽出方法があります。
それぞれ利点もあれば欠点もあります。
抽出方法によっては、アロマテラピーに適さないものがあることも、知っておく必要があります。
なぜなら精油は法的には、雑貨です。
いまや、あちこちで精油を購入することができます。
100円ショップにあろうとも、混ざりものがしてあろうとも、全く問題のないことです。
ただし、より安全で効果的なアロマテラピーを行うには、正しく精油を選ぶことや、分析表のこと、成分のことなどを知ることが大切です。
しっかりとした知識を身につけて、安全で楽しく使えるようになりたいですね。

精油って?ケモタイプって?

分析表~付いていれば安心?~

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