嗅覚のお話~香りと脳・心身の関係~

嗅覚の1番優れているのは、ゾウだそうです。
ブタがトリュフを見つけたり、警察犬が活躍したり、犬がガンを見つけたりします。それは、とても優れた嗅覚があるからです。
それに対して、人間の嗅覚はあまり発達していないといわれています。
しかし、匂いは記憶や感情と密接に結びつき、脳の中で複雑な働きをします。
香りの情報はどのように脳に伝わるのか、どのように記憶、感情、心身と関わっているのかを見てみます。

●嗅覚ルートについて
香りがどのように脳に伝わっていくのか、嗅覚ルートを見てみます。

①芳香分子(におい物質)が、鼻腔に入ります。
②芳香分子は、嗅上皮を覆う薄い粘液層に溶け込みます。
嗅上皮の拡大図(図の下)
③まず嗅毛で受容され、嗅細胞に刺激を与えます。
④電気信号により嗅神経へ。
⑤嗅球を通ります。
⑥大脳辺縁系の扁桃核や視床・視床下部へ伝わります。
⑦その後、大脳新皮質の嗅覚野や自律神経系、内分泌系、免疫系へと伝わります。

ここで注目したいのが、匂いは、大脳辺縁系の視床・視床下部から、自律神経系、内分泌系、免疫系に影響を与えるというところです。
香りは、心地よい気分にさせるだけでなく、心身にも影響を与えるようです。
私たちは、良い香りを嗅ぐことで、リラックスしたり、元気になったりします。
海や森の中では、爽やかな気分になり、落ち着きます。
「心が洗われたようだ」とか、「リセットされたようだ」などと表現したりもします。
花の香りが心安らぐことも、経験的に知っています。

●ホメオスタシス
そこで大切なのが、自律神経系、内分泌系、免疫系に深い関わりを持つホメオスタシス(恒常性の維持)と呼ばれる働きです。
私たちには本来、外部の変化にうまく順応する能力があります。
外部環境の変化に対応できる調整機能があるということです。
ストレスや肉体的・精神的疲労などの刺激に対して、バランス(調和)をはかろうとします。
病気が治るのも、ストレスを乗り越えるのも、心やからだの安定を保とうと、外部の刺激に対してバランスをはかろうとする調整機能によるものです。
自己調整機能・自然治癒力といいますが、これはこのホメオスタシスの働きといえます。
例えば、ストレスで自律神経系が乱れたら、内分泌系、免疫系にも悪影響が出ます。
どれか一つでも乱れが生じれば、連鎖的に他の二つにも影響が出て、ホメオスタシスの機能が崩れてしまいます。
心と身体がバランスを維持することで成り立っているというところです。

アロマテラピーの最大の魅力は、心と身体のどちらにも働きかけることが出来ることです。

●大脳辺縁系・大脳新皮質のそれぞれの役割と特徴
・大脳辺縁系
大脳辺縁系は、古い脳、情動脳と呼ばれます。
感情を司ったり、匂いの情報を処理する場所です。
意欲を生じたり、記憶と深い関係があります。
本能的な快・不快を感じます。
・大脳新皮質
対して、大脳新皮質は人の脳と呼ばれます。
知能・理性的な機能を司っています。

私たち人間には、五感という感覚器があります。
このうち嗅覚以外は、大脳新皮質で判断や解釈をされてから、大脳辺縁系に伝わります。
その際、右半身で受容した刺激は左の脳へ、左半身で受容した刺激は右の脳へ伝えられます。
しかし嗅覚だけは、大脳新皮質の知的・理性的な判断や解釈を得ずに、本能を司っている大脳辺縁系にダイレクトに情報が伝わるという特徴を持っています。
右の鼻腔から入った香りは右の脳へ、左の鼻腔から入った香りは左の脳へ伝えられます。
これにより、香りの刺激は伝達速度が非常に早いということがわかります。

なぜ嗅覚だけは違ったルートをたどるのでしょうか。

●嗅覚の役割
嗅覚の役割は、大きく分けて3つあります。
①危険予知
生命に危険を及ぼすものを探知します。
その場の環境の変化を見分けることです。
私たち人間でいうと、腐敗臭や焼け焦げ臭、ガス臭などがそれにあたります。
このような嗅覚は、ネズミや爬虫類などの下等動物ほど発達しているといわれます。
草食動物の場合は、肉食動物の匂いという情報で、「恐怖」という不快情動が起こり、その場から逃げることで命を守ることができます。
②食材探知
食べれる物、食べられない物を選ぶためです。
腐敗していないか、口にした過去の記憶と結びつけます。
例えば、グラスが3つあり、水が入っています。
その中に腐っているものがあります。
見た目だけでは判断しかねる、クンクンと匂いを嗅ぐという行動に出ます。
③異性探知
種族保存だったり、敵と仲間を見分けます。
無意識で相手の匂いを確認しています。
最初に、ブタがトリュフを探す話をしましたが、これは単にブタの嗅覚が優れているというわけではありません。
トリュフを探すのはメスブタです。
トリュフには、オスブタのフェロモンと同じ成分が含まれいるため、匂いを嗅ぎつけたメスブタが、興奮してトリュフを掘り起こします。

このように、嗅覚の役割があるわけですが、どれも生きていくためには大切な役割をしています。
そのため、睡眠中でも嗅覚は休むことをしません。
寝ている間も、外的から身を守るために、起こしておかなければならないのです。

●嗅覚の疲労
最初は匂いを感じていても、数分でその匂いを感じなくなります。
みんな経験があると思いますが、これは匂いに慣れた状態です。
これにも重要な意味があります。
常に新しい匂いに敏感になって、敵の匂いを捕らえなくてはならないからです。

このように、命を守るための感覚器であると考えると、本能的に感じ、瞬時に快・不快を感じとる必要があるというのが納得できます。
私たちの今の生活では、言語の発達もあり、そこまで命に関わることだという認識はないかもしれません。
しかし動物や植物は、自ら発する匂いで、仲間に危険を知らせる能力を持っています。
もちろん、本来は人間にも、恐怖を嗅ぎ分け、仲間に知らせる能力があったのです。

オランダの大学での実験に面白いものがあります。
まず男性10人にホラー映画を見てもらい、映画鑑賞中の脇の下の汗を採取しました。
次に36人の女性に、視覚検査を受けてもらい、恐怖とは無関係の検査に気をとられている間に、先ほど採取した男性たちの汗の匂いを嗅がせてみました。
すると、彼女たちの表情はにわかに曇り、無意識に目を見開き、恐怖おののく表情に変わったそうです。

ただ単に、汗が臭く不快だったのでは?とも思いますが、専門家によれば、この実験結果は、本能的に恐怖を嗅ぎつけ、一部の感情は匂いを通じて他人に伝わることを意味するそうです。
人間は、言葉や目だけではなく、匂いを介してのコミュニケーションが可能であることを示しているのだということです。

●嗅覚と記憶の関係
嗅覚の役割の2つ目でも、食べ物が腐ってないか過去の記憶と結びつけるとありました。
嗅覚は記憶とも深い関係があると考えられます。
大脳辺縁系には、記憶と深い関係があります。
匂いの情報を処理する場所と、感情を司る場所が同じなので、匂いによって記憶や感情が呼び覚まされるということがおこるのです。
町を歩いていて、香水や柔軟剤、服に付いた匂いで、ふと懐かしく、知り合いとすれ違ったのでは?と、振り返ってしまうことがあります。
その人と香りをセットで記憶しているようです。
みなさんにも経験があるのではないでしょうか。
これを「プルースト現象」と呼びます。
これはフランスの文豪「マルセル・プルースト」が20世紀初頭に出した小説の中の一説です。
”ふと口にした、紅茶に浸したマドレーヌの味や香りから、幼少期の夏の休暇を思い出す”
という文章です。
当時は「現実は記憶の中に作られる」という見解を提起して、哲学者たちに大きな刺激を与えたといわれています。
懐かしい匂いから呼び起こされる記憶は、人を癒します。

●嗅覚の歴史
嗅覚に関わる話は歴史的に見てもたくさんあります。
魔術や宗教儀式でも、薫香として広く使われてきました。
聖書などでは、伝達手段や、人を操作する目的で使用されることもあったようです。
いわゆる洗脳のような、はっきりした目的を持っていたと考えられます。
以前精油の抽出方法で紹介した「パヒューム」という映画があります。


18世紀のフランス、香水の町グラースが舞台になっています。
ありえない原材料で香水を作るという恐ろしい物語です。
古代エジプトでは、頭・心・土台、今でいう、トップノート・ミドルノート・ベースノートを合わせた12種類の香料の最後に、もう一つ香料を加えることによって、究極の香水を作ることが出来ると信じられていたそうです。
13番目の香料は、未だわからないということです。
しかし、その香水をもってすれば、全てが思うがままになるという伝説です。
この物語の主人公は、それをやってのけました。
香りが人の心までも支配する力を持っていたということです。
これ自体は物語ですが、歴史的みても、香りで人を支配していたということも、かつてはありえたのではないかと考えられます。

このように嗅覚についてみてきました。
香りというものは、目に見ることができません。
しかし、私たちの生活の中で欠かせないことがわかります。
匂いは、生命維持にとって大切な刺激です。
良い匂いは、私たちの自然治癒力を高めます。
私たちは幸いなことに、アロマテラピーという、まさに匂いに関わる方法を知っています。
香りが、心や身体にとっていかに大切なものであるかを再認識して、キチンとした知識を持ちたいですね。

最近は、嗅覚と認知症の関係も研究が進んでいるようです。
精油で予防出来るのであれば、ありがたいです。

香りは、形には残りませんが、記憶には残ります。
素敵なことですね。

嗅覚のお話~フェロモンをまとう~

ローズマリーのエピソード

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